勘と気分で小冒険「衝動買いして大当たりだった漫画」3冊の紹介

本屋は好きだろうか?因みに筆者は大好きだ。
新刊コーナーの本の並び、スタッフの作った期間限定フェアの本棚、それぞれの棚の最下段に並べられた平積みのチョイスなどを眺めるのが特に好きだ。
そこには本好きのスタッフの拘りや、今お勧めしたいものなどが表れているように思える(実際は商売上の都合もあるだろうが)。

そういった本棚をつらつらと眺めていると、全く知らない、初めて見る本なのに興味を惹かれるものに出会うことがある。
今回は筆者がそんな具合に遭遇した、いわば衝動買いした漫画の中でも面白かったものを紹介する。

人と人馬の歴史を見届ける「人馬」(全4巻 完結済み)

著者 墨佳遼
発行 イースト・プレス

1作目は一風変わった和風ファンタジーの紹介だ。

あらすじ

平安~江戸時代のような文明の世界が舞台だが、現実のそれと違う所は「人馬」と呼ばれるケンタウロスのような種族が存在することだ。

彼らは人間と同じようにコミュニティを作り、家族と生活し、そして人間と対立してきた。
本作は山に暮らす人馬「松風」を主人公に、人馬と人間の時代の変遷を描いた作品だ。
1~2巻(第一部)は人馬と人の対立を、3~4巻(第二部)では少し時が進み、人馬と人の共存を描いている。

力強く描かれる憎しみの有り様

架空の時代の動乱を描いた物語だが、筆者は本作にはもう一つテーマがあると思っている。
それは憎しみ、あるいは「憎しみとの付き合い方」だ。

出典:『人馬』2巻

人間と人馬の争いが原因で、登場人物の中には人間へ強い憎しみを持った人馬が登場する。
そして意外にも、それが印象強くフォーカスされるのは第二部の方だったりする。

時代が流れ、平和な時代に向かうのだと確信できる状況を、当時の憎しみを持ったままの人が目の当たりにした時の心の揺れは印象的だ。
「今まであったことをまるでなかったように人間と生きることが、親父の繋いだ道なのか!!」
谷風に育てられた人馬、権田が第二部で放つ台詞である。
結局自分の感情というのは、環境が変わるだけでは変わるどころか強固にもなりかねないと思わせられるシーンだ。

人間×人外物のように見える本作だが、もっと大きな視点で描かれた作品なので具体的に人間と交流するようなシーンは少ない。
和風ファンタジーと紹介しているが、どちらかというと動乱期の時代物などが好き人に読んでほしい作品である。

現代でも楽しめる名作が漫画化「地底旅行」(全4巻 完結済み)

著者 倉薗紀彦
発行 KADOKAWA/エンターブレイン

本作は小説のコミカライズにあたる。原作はなんと1864年に出版された冒険SF小説だ。
ディズニーシーの有名アトラクション「センター・オブ・ジ・アース」のモチーフにもなっている、現在のあらゆる冒険ものの原点ともいえる超大御所小説が、実に155年の時を経て漫画化したのだ。

あらすじ

人名が長いのであらすじを書こうとすると無駄に長文となってしまう。そのためすごくざっくりと説明しよう。
リーデンブロックというとても偏屈な学者が、骨董市で手に入れた手記に書かれた地底世界へ甥のアクセル、現地案内人のハンスと共に地球の中心を目指す。

しかし地底は現代科学では説明できない不可思議な世界が広がっており、冒険は過酷を極める……という話だ。

強制的に引きずり込まれる表現力の暴力

漫画の優れている点の一つとして「小説ほど読者に想像力を要求しない」という点にある。
本作はそれをフルに活かしていると思う。倉薗紀彦氏の描く地底旅行は人物を特徴的に、風景を写実的に、表現は印象的に描かれている。

出典:『地底旅行』4巻

これらの要素を、原作小説から引用してきているような文体の、アクセル視点でのモノローグが違和感なく繋いでいる。
その結果、読んでいくうちにまるで自分もアクセルとしてこの地底旅行に同行しているかのような、凄まじい臨場感を生み出している。

決して昔ながらの古典的な冒険作品などと思わずに読んでほしい。
作中のぞっとするような恐怖も、想像を超える感動的な風景も、全てあなたのものとして体験できるような作品だ。

見ているこっちがもどかしい!「はなにあらし」(全3巻 現在連載中)

著者 古鉢るか
発行 小学館

読者の皆様で百合が好きな方はいらっしゃるだろうか。因みに筆者は大好物だ。
最後に紹介するのは他作品と比べて重たくない、大変可愛らしい本作だ。

あらすじ

「千鳥と なのは。」「二人は恋人同士。」「でもその関係は、みんなには秘密。」
こんなモノローグが各話冒頭に挿入される。もはやこれがあらすじの全てと言っていい。

タイトルの「はなにあらし」とは「好事魔多し、月に叢雲、花に風(あらし)」という言葉からきている。
良いことには邪魔が入りやすいことの例えだ。
この例えの通り、二人が何かしようとすると必ず何か邪魔やトラブルが起きる、というのがお決まりのパターンだ。

丁寧に描かれる一瞬の幸せ

二人は皆には関係を秘密にしながら、時々二人きりになって、あるいは友人といてもばれないように、恋人として交流する。

そのため作中では二人の想いがだだ漏れになていても、そういうアクションを取るのはほんの一瞬、なんて話も少なくない。
しかしこの漫画はその一瞬を切り取るのが本当に上手い。そこだけ時間の流れが10倍に引き伸ばされたように感じる。

出典:『はなにあらし』1巻

可愛らしい女の子がふとした時に笑ったり、あるいは慌てふためいたり。
そんな一瞬を楽しみたい人には是非ともお勧めしたい一冊だ。

おわりに

いかがだっただろうか。何のつながりもない3作を紹介したが、これらは筆者が本屋で偶然出会った作品たちだ。
散歩気分で本屋の棚を眺めてみれば、これらのような普段自分が気づかないような作品にも出会えるかもしれない。

それは知らない道を歩くような小冒険で、同じ景色に飽きてきたような人にはうってつけだ。
たまには本屋でそのような楽しみ方をしてみてはどうだろうか。