家族じゃないけど、大切な人「疑似家族もの」マンガ3冊の紹介

 

血のつながりは無いけれど、家族みたいに大事な人。
そういった関係を描いた作品を「疑似家族もの」という。

一人暮らしをそれなりに続けていると、恥ずかしい話だが定期的に「人恋しさ」みたいな感情が湧いてくることがある。
そういった時にちゃんとした(という言い方も変だが)家族モノを読んでしまうと心理的ダメージが増えるばかりだ。

そういう時に、人とのつながりを程よく思い出せる疑似家族ものは、筆者の心の安定に一役買ってくれている。

今回は、そんな筆者が疑似家族ものだと思って読んでいる漫画を何冊か紹介する。

一人でいるのが少し寂しい時、あるいは人付き合いに少し疲れた時などに読んでみることをお勧めする。
どちらにしても前向きな気持ちで「誰かと会って話がしたい」と思えるくらいの心理状態になってくれれば幸いだ。

ご飯で繋がる絆がある「八雲さんは餌付けがしたい。」

著者 里見U
発行 スクウェア・エニックス

まずは比較的正統派な本作の紹介をする。

あらすじ

主人公は八雲柊子(しゅうこ)。28歳で夫に先立たれた未亡人である。
彼女は夫を失って以来、自分の気持ちを整理するため、今後のことをどうするか考えるためという名目で日々をなんとなく過ごしていた。
そして最近できた趣味というのが、隣に暮らす高校球児の大和翔平を「餌付け」することであった。

ここまで読んで少しでもいかがわしいことを考えた読者さんにはいっぺん頭を冷やしてきていただきたい。

料理以外にも楽しめる豊富な引出し

変な暗喩とかは一切なく概要は上に書いた通りで、本作は家庭料理マンガの側面も持っている。
越境入学だが寮に入り損ねた大和の夕飯を、八雲さんが趣味で作るというのが本作のメインだ。

部活帰りの男子高校生という人類で最も食欲旺盛であろう大和を、どうにか満腹にさせようと八雲さんは奮闘する。

出典:『八雲さんは餌付けがしたい。』2巻

そして高校男子の食欲でそれをわっしわっしと平らげる様を見れば、八雲さんが餌付けに感じている充実感にも共感できるだろう。

加えて高校野球についてもけっこう突っ込んで描かれており、大和の野球生活というのもちゃんと楽しむことができる。

八雲さんの過去に関するシリアス有り、大和の高校生活を描く青春有り、料理マンガの側面有りと、色々な話をいっぺんに楽しめる器用な作品だ。

お姉さんは人外です「姉なるもの」

著者 飯田ぽち。
発行 KADOKAWA/アスキー・メディアワークス

今度は一転して、疑似家族ものとしてはかなり変化球な人外×人間ジャンルからの紹介だ。

あらすじ

主人公は両親を亡くし、身元を引き受けた従叔父も精神錯乱により入院したことで天涯孤独となった少年、夕。
従叔父が入院した際、絶対に入ってはいけないと言われていた蔵に入ってしまったことで悪魔と契約することになる。

その契約から悪魔は夕の姉となり、「千夜」と名乗って奇妙な共同生活が始まる、というのがあらすじだ。

人外である故の魅力

原作は成人向け同人誌であるが、商業連載作品ではそういった表現は少ない。
夕と千夜の共同生活や、二人で模索していく家族としての関係性に主眼が置かれている。

本作の面白いところは、疑似家族ものとしてだけではなく、千夜のいわば「疑似人間もの」としての面もあることだ。
千夜は夕の姉として振舞うことは勿論、その大前提として人間として振舞うべく努力する。

本来並行するはずのない二つの動作が同時に存在することが、千夜というキャラクターに個性的な魅力を与えている。

出典:『姉なるもの』2巻

人間としての在り方から手探りの状態である千夜と、その孤独から人との交流に少し不器用な夕。
二人の微笑ましくも非日常な日々が、時折差し込まれる田舎のノスタルジックな風景と共に描かれる綺麗な作品だと思う。

未来と死に向き合う物語「兄の嫁と暮らしています」

著者 くずしろ
発行 スクウェア・エニックス

本作はちょっと複雑だ。疑似家族と言えば疑似家族なのだが「義理」家族という作品だ。

あらすじ

主人公は岸辺志乃。早くに両親を亡くし、兄夫婦と暮らしていたがその兄も亡くなってしまう。
それから志乃は、残された兄の妻、”希さん”と暮らしていく……という話だ。

私の偏見もあるのだが、疑似家族ものは大抵、疑似家族の関係が発生した時点が初対面、というものが多い。
ところがこの作品はそうではない。義理とはいえ戸籍上実際の家族である二人の話である。

少しだけ他人ではないからこそのすれ違い

本作が他2作と違う点は、志乃にとっての兄、希にとっての夫という二人に共通した繋がりのある人物がいることである。
加えて兄夫婦は同級生で、志乃自身も同じ高校に通っているという、共通した場所も存在している。

これらによって、残された二人に思い出させる記憶が彼女らをしんみりさせたり、あるいは笑顔にしたりする。

この作品のもう一つのポイントは、志乃の行き過ぎた自立心である。
幼いころに両親を亡くして以来周りの大人の世話になり続けている志乃は、兄を亡くしてからかは分からないが「気遣い」や「心配される」というものにひどく敏感である。

出典:『兄の嫁と暮らしています』2巻

一方で希も夫と結婚する前から志乃のことを本当の妹のように大事にしており、そのすれ違いが作中でドラマを生んでいる。

全体的に切ない雰囲気で、巻によっては哀しい読後感も少なくない。
しかし心の片隅に置いておくと、不思議と優しい気持ちになれる作品だ。