TRPG。会話でゲームを進行させる、展開・結末はプレイヤー次第で千差万別という夢のようなゲームである。
会話主体のアナログゲームであるから、当然ルールブックというものが存在する。そこにはさも当然のようにこんな文言が書かれていることが多い。
「司会進行役であるGMはこのゲーム、またはTRPGに慣れた経験者がやるのが良いだろう」と。「そんな人がいたら苦労しねえ」と思ったことはないだろうか。因みに筆者は何度か思ったことがある。2回か3回くらいある。
しかし安心してほしい。TRPG全くの未経験者でも、GMというのは「やってやれないことではない」のだ。
本記事は、初めてのTRPGセッションをGMとして参加し、以降何かとGMをすることになってしまった筆者が「未経験者の集団の中でそれっぽくGMをする方法」を紹介するものである。少々長くなるが、かつての自分のような窮地に立たされている人間の助けになれば幸いだ。
GMの仕事ってなんだ?
GMは仕事が多い。その仕事は主に3つに分けられると筆者は考えている。
①演出
言い換えればプレイヤーの、プレイヤーの操るキャラクターの目となることである。
キャラクターたちがどんな状況にあるか、何と遭遇してどんな印象を覚えているのか。
それらを説明しなければプレイヤーは何をしたらいいかもわからない。演出などとかっこよく言っているが、要は「状況の説明」である。
②司会進行
TRPGは会話によってストーリーを進めるゲームである。トーク番組の司会を例に挙げるとイメージがしやすいだろうか。
オープニングから始まり、何らかの話題を提示して面白い話を引き出し、場合によってはツッコミを入れて面白さを拡げ、皆に平等に話す機会を与える。その上で番組の尺の範囲に収まるよう、全体の流れをコントロールする。
TRPGのセッションに置き換えれば、
・限られた時間の中でグダグダにならないように、シナリオ(番組)を進める
・演出(物語の部分)と判定処理(ゲームの部分)の切り替えをスムーズに行う
というのが司会進行の目的だ。プレイヤーの協力が必要な場面もあるが、舵取りはGMである。
③データ管理・判定の処理
一転して舞台裏な仕事である。NPC含めキャラクターのステータスを把握し、状況の変化や判定に応じ必要なら変更を加える。戦闘シーンであればこの処理がメインとなってくる。あるいはビデオゲームで言うところの「フラグ処理」と呼ばれるもの。
ルート分岐やイベント発生の条件を把握して、それらを満たしているか、満たしたとしたらどのタイミングでそのフラグを回収(イベントを発生)させるのか。事務的な処理ではあるのでパターン化できるが、いかんせん量が多い仕事である。
「TRPG未経験者でいきなりこんなんできねえよ……」と思ってしまうだろう。しかし安心してほしい。わかりやすく説明するために真面目に説明してしまったが、実際GMをするときは「それっぽくできればOK」という気楽さでやっていただきたい。
その為の方法をこれから説明するのだ。
遊ぶシステムの選び方
一番大事なことは、自分たちの遊びたいシステムであることだ。だが初心者だけでTRPGを遊ぶ場合、システムの難易度についても充分考慮した方が良い。
詳しい選び方についてはこちらの「GM視点で考えるTRPG初心者が遊ぶシステムの選び方」で解説しているので、是非とも併せて読んでほしい。
ここではこちらの記事の内容を掻い摘んで取り上げておく。
判定やルールがシンプル
これはかなり重要な要素だ。ルールが簡単であればGMの負担(主に③のデータ管理)がかなり楽になる。判定がシンプルというのは、つまり使うダイスの種類が少ないということ。
1つの判定にモタモタしていると雰囲気がグダってしまうので、できるGM(のフリ)をするのに、シンプルなシステムは重要だ。
世界観が一様、または狭い(シナリオにもよる)
これはそこまで必須という要素ではないが、自分の遊びたいシステム又はシナリオがこれに合致しているとありがたい部分だ(主に①演出の負担が軽減できる)。
変化に富む背景を不慣れな言葉で逐一説明するよりも、全編通して統一された、簡単な言葉でスパッと説明できれば、相対的に「想像力を掻き立てられる風景描写」にできる。
また、頻繁な場面転換によって手間、情報量が増えてしまうと、考えること・話すことが増えてしまうので少し困る。
システムというかシナリオに依存する部分でもあるので一概に言えないが、複数の風景や価値観が登場するものは、初めてセッションをするにはお勧めしない。
こういった部分で、システムレベルで風景が一貫しているものは、GMをやる上で結構お得だったりする。
リプレイ「動画」を見て学べること
ここまででGMの3つの仕事のうち2つを軽減する方法を紹介した。残った②司会進行については軽減する方法はないのか?と思われるかもしれない。
申し訳ないが、これについては「勉強の仕方」を紹介するに留まってしまう。なにぶんコイツは「喋りの技術」に依るところなので、楽をするのができないのだ。
そして、動画形式である場合、本よりも直感的に内容を把握しやすい。配信のリアルタイム感も大いに参考になるところではあるのだが、一時停止ができなかったりダイスによる判定の画面が小さめに取られていたりと、微妙に不都合が多い。教材として見るには、動画が良いと思う。
当たり前だが、見て楽しんでいるだけでは学べることは少ない。見る動画は自分のお気に入りで構わないが、これから遊ぶ予定のシステムであること。
実際に自分がしゃべることを想定して、こんなところに注目して見ていこう。
①演出
動画上での演出は、判定の際に入るカットインやら画像やらで派手なものが多い。注目すべきはそういったところではなく、「文章に起こされている部分」だ。ここに関しては実際のセッションと互換が利く。
言い回しや印象の伝え方、また内容だけではなく、場面に応じてどの程度詳しく描写しているか。同じ街の風景描写でも、主人公たちが見慣れたいつもの昼間の情景と、何らかの異変で不穏な雰囲気となった夜の情景では違いがあるだろう。こういったところを、雰囲気だけでいい。「こんな感じ」程度にでも押さえておこう。
TRPGは想像力のゲームだ。GM自身も想像力と語彙力をフルに使おう。
②司会進行
リプレイ動画を見て学ぼう、と言っておいてなんなのだが、司会進行というものは動画内で「何分何秒~どこまでが司会進行をしている」という風に示せるものではない。
冒頭にも述べたが、司会進行というのは
「限られた時間の中でグダグダにならないように、シナリオ(番組)を進める」
「演出(物語の部分)と判定処理(ゲームの部分)の切り替えをスムーズに行う」
というものだ。つまり、セッション全体の流れが司会進行の結果として存在する、ということ。GMの言動によく注目して「今は情景描写をしている」「今はシステムの説明をしている」
というのを把握して、それぞれどの程度、言葉や時間を割いているかを考えながら見よう。
これも雰囲気だけでいい。「こんな感じ」程度でもイメージが掴めれば十分だ。
③データ管理・判定処理
これはどちらかというと自分へのテストだと思って見ると良い。リプレイ動画は大抵、正しい判定をしていることを示すためにダイスの内容(振ったダイスとその出目)を動画内で表示している。
前の2つの項目は「こんな感じでいい」と言っているが、ルールの運用に関しては別だ。ルールブックをなるべく熟読し、動画内のダイスの内容を理解できるようにしよう。
もちろんルールをすべて頭に入れるなんてことはできないから、ルールブックを見ながら把握できれば十分だ。
その他気を付けるべきこと
ここまでで筆者の語りたいことはほぼほぼ書くことができた。最後に実際のセッションを計画・実施する際に注意するべき点や小技など、具体的なtips的な事を書いていく。
短い、且つ既存のシナリオを使おう。
扱うシナリオはなるべく短い方が良い。ルールブックにシナリオが付属しているならそれでもいい。短いシナリオであれば変化も少ない。扱う情報量も少ない。GMに優しいことばかりだ。
長いシナリオは初心者集団ではそもそも終わるかもわからない。初心者に重要なのは「最初から最後まできちんと終わらせること」である。
恐らくいないとは思うが、最初から自作シナリオというのは本当に避けた方が良い。ゲームバランスが実感できていない状態ではまともなゲームにならないことを断言する。
巻き戻しだけは絶ッ対にしてはならない
巻き戻しというのは、「過去の判定を遡って修正する」という行為のことだ。
GMがルールを間違えた事が後になって発覚した時、その責任感からつい手を伸ばしてしまいそうになるが、これだけは本当に行ってはならない。一度これを許すとキリが無くなってしまう。
その上、プレイヤーの中には正しく処理した筈のことさえ後から「やっぱこうしたい」と言い出しかねない。
一度振ったダイスの意味と結果は絶対に覆さない。それこそがGMの負うべき本当の責任感だ。だからこそ、ルール・判定の処理に関してはしっかりと把握しておこう。
全てを頭に入れる必要はない。わからないと思ったとき、スムーズにルールブックを参照できれば十分だ。
もし間違えてしまったら、きちんと謝った上で「次からは間違えない」と肝に銘じておこう。
判定の数値を描写に反映させよう
何らかの判定を行うとき、「出目に応じて失敗&成功だけでなく、その行動の完成度が決まる」というものがある。
CoCの「隠れる」「隠す」「心理学」などの技能がこれにあたる。「隠れる」技能であれば、例えば1d100で50以下を出せば成功であるとして、出目が48と15では15の方がより高度な隠れ方ができたと解釈するのだ。
こういった感覚を、描写だけ他の技能にも当てはめると、判定の結果を描写しやすくなる。
例えば「追手から逃げる」という判定などだ。システム的には判定に成功してしまえば、次の場面へ切り替えられることが多い。
だがここでギリギリの出目で成功して、皆が「危なかった……」と安堵しているとき、「はい、それでは無事に逃げ切れたということで」と事務的に描写するよりは「君たちには追手の伸ばす腕が、すぐそこまで迫っていた。しかしギリギリのところでこれをかわし、なんとか逃げ切ることができるだろう」と描写するのだ。
そうすることで、「プレイヤーたちがギリギリの出目を出した、システム由来の安堵感」と「キャラクターたちがギリギリで逃げ切れた、物語由来の安堵感」をリンクさせることができる。
こんな風にプレイヤーとキャラクターの感情を、ダイスを通して一致させると、プレイヤーにとって感情移入しやすいセッションにできる。
終わりに ~GMを楽しもう~
いかがだっただろうか。思いつくことをひたすらに書いてしまったら、ここまでで5800文字に到達してしまった。こんなに文字を書いたのも久しぶりだ。
ここまで読んでくれた方がいらっしゃったら感謝しかない。読んでくれてありがとうございます。
全体的に説教臭い内容となってしまったが、GMだってセッションの参加者。GMにはGMの楽しみというものがある。
セッション中のプレイヤーたちは、自分のキャラクターとパーティーが被害を最小限に、且つ成果を最大限にするよう冒険を進めることで頭がいっぱいだ。
そんな中GMは、この世界唯一の物語を最も近くで、心置きなく眺めることができるのである。自分が好きな、良い物語になったときは是非プレイヤーたちに感想と称賛を送ってあげよう。
初心者がGMをやるというのは、当たり前だが経験者がGMをするよりもハードルの高い話だ。だからこそ思いつく限りの準備はしておこう。「他の人より少し難しいことをする」という心構えはしておこう。
しかし別に初心者がGMをするために、その人が天才である必要は微塵も無い。もし周りがGMに困っていて、それでいて皆がGMをすることに躊躇いを感じているなら、思い切って手を挙げてみよう。
そもそも自分が初心者、周りも初心者なら、ミスを指導しようなんて人は1人もいない。
せっかく知らない世界に飛び込むのであれば、より未知の領域の方がワクワクするというものだ。