本記事では前回紹介したTRPG「永い後日談のネクロニカ」のサプリメント3冊を紹介する。
どれも非常に有用な追加要素であり、もし予算に余裕があるなら、そして長く遊びたいと思っているなら是非3冊とも購入していただきたい。
箱庭の物語
このサプリメントは、明確にGM用のサプリメントである。
しかし、GMをするにあたっては必携とも言えるほど、基本ルールブックのサポートが充実している。
①対話形式のシナリオ作成・GMガイド
ここでは2人のドールによる対話形式で、ネクロニカのシナリオの作り方、GMをするにあたっての注意事項が説明される。
対話の口調に古のオタク感がにじみ出ている気がしなくもないが、発行された時代を踏まえて気にしないでほしい。
とはいえ説明されている内容は、とても具体的且つ広範に応用の利く、的確なアドバイスが充実している。
②基本ルールブックに寄せられたQ&Aおよびエラッタのまとめ
エラッタとは、ルールブックが発売された後にその内容を修正するものとして発表されるものである。
大抵は誤解を招く文言の修正だったりするが、バランス調整のためにスキル等の性能そのものが修正されることもある。
ネクロニカはこのエラッタがそこそこ発行されており、最新版をHPで確認できるのだが、少々面倒である。
これらが、基本ルールブック発売後に寄せられたQ&Aも併せてひとまとめにされている。
エラッタの量がそこそこ多いため、それを適用すること自体が億劫になっていた当時のGMたちにとってはとてもありがたいものである。
もちろんこれから始めるという人たちにとっても、数ページで全て一まとめになっている方が扱いやすいだろう。
但しここに掲載されているエラッタは本サプリ発売時点での最新版なので、現時点での最新版を適用したい人は公式HPで確認しよう。
③3つの追加シナリオおよび追加手駒
GM用サプリと言えば、システム問わず、まず収録されるのがこれらだろう。
ネクロニカでも充実の内容が収録されている。
追加シナリオはどれも方向性の違うもので、シナリオ作りの参考にもできる良質なものだ。
心を揺さぶる哀しい物語、恐怖を掻き立てる物語、狂気に塗れた物語と、「ザ・ネクロニカ」とでもいうべきラインナップである。
手駒とは、GMが扱う敵キャラのことである。サヴァント(手駒としての、PCと敵対するドール)もいる。
基本ルルブの時点で十分すぎる数の手駒が用意されているが、本サプリでは少し尖った性能の物がメインに追加されている。
悪く言えば少し使い勝手は悪いのだが、狙ったところにうまく配置できると、PLにとってかなりの脅威になりえる手駒たちだ。
もう一度念を押しておくが、これは「GM必携」と言えるサプリである。
GMをするなら是非とも併せて購入してほしいし、もしGMをするつもりが無いならネタバレ防止のためにも中味は見ない方が良い。
歪曲の舞踏
このサプリメントは内容の大半が追加要素「サイケデリック」に割かれている。
今までのルールの延長ではない、全く新しい要素であるので、基本ルールに慣れた中~上級者向けと言えるだろう。
①サイケデリックという追加要素
本サプリのメインである。
いわゆるESP、超能力のような現象を戦闘で使用することができる特殊なクラスだ。
ネクロニカの世界におけるESPとは、「進みすぎた科学技術と、狂いすぎた倫理観によっても尚完成はしなかった、その開発にあまりにも多くの犠牲を払いすぎた能力」として描写されている。
完成しなかったといっても結果がゼロだったわけではなく、偶然にも成功してしまった例がいくつか存在し、その一例として物語に参加するような形だ。
まさに追加要素らしい、「極端に特殊なことが可能」「極端にハイリスク」という内容になっている。
リスクとリターン相殺の結果として「他の姉妹の撃ち漏らし対策」「1人いれば十分」という丁度いいバランスに設計されている。
②キャンペーンシナリオ
シナリオはもちろんサイケデリックをメインに据えたものだ。
このシナリオもまた、今まで収録されてきたものとは一味違う特殊なものとなっている。
まず、単発ではなくキャンペーンシナリオである。
複数のセッションを繋げて一つの大きな物語とするシナリオだ。
こういったシナリオは当然通常よりも時間がかかるシナリオであるが、その分壮大な物語を体験できる。
もう一つは、PCの過去が予め決まっていることだ。
記憶を無くしたドールが目覚める所から始まるのは変わらないが、PCに応じてその過去がシナリオで決まっており、物語を進めながらそれを解き明かしていくという流れになっている。
通常の「記憶のカケラを探しながらPCの過去を想像していく」というような形ではないが、自分自身に秘められた謎を追う、というのはまた違った楽しさがある。
③追加スキル・パーツ
既存のクラス・ポジションにも追加のスキルやパーツが用意されている。
サイケデリックはそのあまりにも特殊な背景や性能から、安易に導入することを推奨されていない。
それを補うような形で、既存のシステムにも追加がされているというわけだ。
その為、止めの一撃に使えそうだったり、あるいはサイケデリックほどではないにしてもハイリスクハイリターンなものが追加されている。
リスクを味方に負ってもらうスキルも有り、パーティー内で器用なリスク分散ができるようになるだろう。
サイケデリックを導入せず、これらだけを導入するという使い方でも本サプリには十分価値があると思う。
最果ての戯曲
箱庭の物語のようにGM向けの情報がほぼ全てを占めているが、冊子の薄い見た目とは裏腹に、高密度な情報が詰められている。
いよいよ本格的にネクロニカを気に入った、ネクロニカをずーーーっと遊んでいたい人には是非購入していただきたい。
①「死後経歴表」「目覚めの場所表」の追加
ネクロニカはキャラメイクの時点で、寵愛点(他システムで言うところの経験点)を多く与えることで、簡単に高レベルのドールで物語を始めることができる。
高レベルセッション時はしばしば「どのような経験を経てPCは現在に至るのか」という設定に悩みがちだ。
それを解決するのが「死後経歴表」である。
これはPCがドールとなってから、どんな旅をしてきたかを簡単に示してくれる。
「目覚めの場所表」はこれとは逆に、ドールたちが目覚める一番最初の場面を簡単に決められる表だ。
とはいえ最初の舞台設定というのはシナリオの中でも重要な意味を持つ。
これを簡単に決める、というのはかなり即興性の高いセッションと言えるだろう。
ネクロニカというものに、TRPGというものに飽きにも似た慣れを感じている人には新しい刺激となりえるだろう。
②簡易シナリオパック
これこそ本サプリ最大の目玉であり、ネクロニカを末永く遊ぶための高密度な情報である。
これはシナリオとしての情報をあえてギリギリまで削ぎ落した、言わば「シナリオの骨組み」集である。
大まかなシチュエーションと展開、戦闘時にGMが使う手駒と戦術を示した程度のものが、これでもかと詰め込まれている。
これの何がすごいのかというと、記載されているのはシナリオの骨組みのみであり、そこから先をGMが自由に肉付けできる点である。
「シナリオの骨組み」を「超親切丁寧なシナリオフック」と言い換えれば伝わるだろうか。
登場するNPCを別の物に置き換えて、それに合わせて舞台も変えてしまえば同じシナリオパックでいくつものシナリオが作成できる。
なんなら全体の流れだけを真似て、バックストーリーから書き換えてしまってもいい。
1からシナリオを作ることに抵抗のあるGMが、オリジナリティを出したいところだけ自作して、苦手なところはこのシナリオパックから持ってくる、なんて使い方ができるということだ。
これほどシナリオ作成をサポートしているサプリメントはなかなか無い。
自作シナリオ初心者から、自分の発想だけではめんどくさくなってきた限界を感じてきた熟練者まで、全員が手元に持っておきたい1冊となるだろう。
おわりに
2記事にわたって基本ルールブックからサプリに至るまで「永い後日談のネクロニカ」を紹介してきた。
人を選ぶ世界観とビジュアルでありながら、その中身はシンプルでわかりやすく、GMへのサポートも充実している。
それこそが筆者がネクロニカを勧める理由であり、筆者がネクロニカを気に入っている部分だ。
この記事によって、ネクロニカの世界へ足を踏み入れる人が1人でもいてくれたなら幸いである。